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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)392号 判決 1969年5月27日

当事者 上告人 石川純一

右訴訟代理人弁護士 菅原勇

被上告人 岩手商事株式会社

右代表者代表取締役 紺野清作

右訴訟代理人弁護士 鈴木直二郎

右訴訟復代理人弁護士 高野長英

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人菅原勇の上告理由について。

債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払ったときは、右制限をこえる部分は法定充当の規定により、残存元本に充当されるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(昭和三五年(オ)第一一五一号、同三九年一一月一八日言渡大法廷判決、民集一八巻九号一八六八頁参照)。そして、右制限超過部分を元本に充当すると計算上元本が完済となったときは、その後に支払われた金員は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものにほかならないから、債務者において、債務の消滅を知って弁済したものでないかぎり、不当利得としてその返還を請求することができ、利息制限法一条および四条の各二項の適用の余地が存しないことも、また当裁判所の判例の示すところである(昭和四一年(オ)第一二八一号、同四三年一一月一三日言渡大法廷判決、民集二二巻一二号二五二六頁参照)。

ところで、上告人の本訴請求は、脱退前の被告中央商事株式会社から数回に金員を借り受けた上告人が、その弁済として昭和四〇年一月二一日および同月二九日に支払った合計金八六万円の金員につき、利息制限法所定の制限に従って計算すると元利金完済後の支払となることを理由に、不当利得としてその返還を求めるものであるところ、原審は、上告人が中央商事株式会社に対して約定に基づいて計算した結果負担することとなっていた消費貸借上の残存元本・利息・損害金債務の合計が当時金八六万円をこえていたことが認められる以上、右金員の返還請求を許すことは、利息制限法一条・四条の各二項の規定に違反する結果となるとして、右請求を排斥したもので、その判断は、叙上の説示に反し、利息制限法の前記条項の解釈適用を誤ったものといわなければならない。そして、右の違法は原判決の結論に影響することが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、本件においては、叙上の見解に立ってさらに審理を尽くさせる必要があるので、これを原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)

上告代理人菅原勇の上告理由<省略>

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